【レポート】中学生ガイドの川谷観光ツアー

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投稿日:2018年12月14日

皆さんは、西郷村川谷地区がどういった場所にあるかご存じだろうか? 地元の人でもひょっとすると知らない人も多いかもしれない。西郷村は全国で唯一、新幹線が停車する村だ。比較的面積の大きな村で、新白河駅周辺の地域は高速道路のPAもあり、大きな工場も多い。川谷地区は、新白河駅からおよそ車で20分ほどの場所にある。のどかな山村地域で、地区の人たちの結びつきが強く、酪農やジャガイモ栽培などが盛んだ。

 

また、小規模校と呼ばれる川谷小・中学校では、子どもたちが互いを認め合い、教師や地域の人たちとの温かな関わりの中で過ごしている。その川谷中学校の生徒が、地元の良さを自分たちで紹介する「川谷観光ツアー」をすると聞いた。なかなか地元の良さを実感できる中学生は少ないのではないだろうか。どんな生徒たちなのだろうとワクワクしつつ取材へ向かった。

 

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ツアーがひらかれたのは9月28日。気持ちの良い晴天のもと、川谷中学生3人がちょっと緊張した面持ちでツアー参加者に挨拶をした。はにかむ笑顔が清々しい。全員中学3年生。近くで課題研究体験活動「観光ガイド班」担当のF先生が優しく見守っている。ツアー参加者の多くはもともと川谷中学校と関わりがあるそうで、それだけでもいかに地域全体で教育に携わってきているかがわかる。

もともと班活動として様々な取り組みを行なっている同校では、前年度川谷地区を紹介している「西郷探検隊」の方から、地域の魅力の伝え方のレクチャーを受けていたそうだ。

 

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最初に訪れたのは川谷小学校近くの「報徳開拓の碑」。

 

川谷地区は戦後開拓の地である。

戦中戦後の食糧難の時代、自給自足可能な農業経営はもちろん、他の農業集落に好影響を与えるような「理想的な村共同体」を訴えた加藤完治のもと開墾が行われた。冬季の「那須おろし」を防ぐ防風林の育成や、気象観測にも取り組んだという。「開拓は教育に始まり、教育に終わる」との言葉が今も残っているのが頷ける。

また、農地となった由井ヶ原へ向かう吊り橋「雪割橋」の建設も行われた。「雪割橋」は現在4代目で、平成33年に完成予定の5代目の建設工事も進んでいる。アーチ型の鉄橋で、長さが82m、谷底までの高さは50mにもなり、橋の真ん中に立つと一瞬くらっとするほど迫力がある。

初代の「雪割橋」は吊り橋だった。食糧難の時代、川谷地区に移り住んだ人たちが、渓谷の向こう側にある由井ヶ原地区の開墾を目的として建設した。阿武隈の渓谷は切り立っていて、まさに命がけだったという。

 

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印象深かったのはツアーガイドの3人にどこを一番紹介したいかと聞いたところ、全員が「雪割橋」を挙げたこと。その言葉通り、彼らはツアー客へ雪割橋の歴史をしっかりと伝えており、彼らにとって誇りの場所なのだと感じられた。

 

S君にインタビューをしてみた。決して口数の多くはないSくんだが、だからこそ言わされた感のない思いを語ってくれた。

 

Q.今回のツアーで一番紹介したいところとその理由を教えてください。

「雪割橋」です。川谷の歴史が詰まっていて、象徴みたいな感じ。今見てもこんなに大変そうなのに、当時の人達は本当にすごいなあと思うから。

Q.今回のツアーをやっていて感じることを教えてください。

僕は普段から、初対面の人と接するのは緊張したりしないんです(「確かにそーだなー!!」と他の2人の声)。でも、次になると「前会った時と同じように接することができるかな」と思って緊張しちゃうんです。だから、前にお世話になった人たちが今日はツアーに参加してくれていて、嬉しいけど緊張してます。でも、頑張ります。

 

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次に行ったのは「西の郷遊歩道」。全長3.2mの遊歩道で、雪割橋からスタートし、阿武隈川の源流に沿うように続く。手入れの行き届いた山林の中を歩き、豊かな自然を満喫できる。「夫婦滝」や「一休みの滝」など見所が多い。

中でも高さ10m、幅15mという「熊の滑り台」は迫力満点で、特にツアーガイドの3人が楽しみにしていたおすすめスポットだ。残念ながら、当日は連日の雨で途中の道が崖崩れとなっており、行くことができなかったが、代わりに行った「一休みの滝」も、滝の見える場所まで行くだけでも息が切れる。しかも当日はダムの放水がされていたそうで、阿武隈川と支流とが合流する部分は濁流と清流に分かれており、参加者一同、驚きや感嘆の声をあげた。

 

その後遊歩道の中で昼食をとっていると、じゃれ合う先生と生徒に和気あいあいとした仲の良さが垣間見える。

 

一際明るく活発なMくんに話を聞いた。ちなみにMくんの好きな教科は国語だとか。

 

Q.観光ツアーで楽しみにしていたことや大変だったことはありますか?

「西の郷遊歩道」の滝は入り口とか似ているので覚えるのが大変でした。本当は「熊の滑り台」に行きたかったのですが、今回は行けなくて残念。でも、一休みの滝は行けたので良かった。

Q.普段から地元の人と関わったりすることがありますか?

牧場でお手伝いをしたことがあります。牛にエサをあげたり。牛は昔から見ているので、特に驚いたり、「すごいなー」と思うことはないです。でも、他の地域の人にアピールできる気はします。というか川谷地区をアピールしたいです!!

 

なんとも心強い。

 

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そして、この観光ガイド班担当、F先生にも話を聞いてみた。

 

Q.3人のツアーガイドを見ていてどうですか?

ツアーが始まるまでは、ちゃんと話せるか不安でした。しかし、きちんと人前で話せているのを見て、意外と物怖じしないんだなと安心しました。そして、これからもっと彼らの良いところを見ていきたいと思います。また、親御さんや地域の人たちにも見せたいですね。

Q.今回のツアーをやるにあたって気づいてほしいと考えたことや、成長したなと感じるところを教えてください。

そうですね。まずは彼らに川谷地区のことを知って欲しいと考えていました。新たな発見をしてほしいし、それを自分たちの言葉で伝えられるようになってほしい。そういう意味で、成長したと感じています。

Q.先生にとって川谷中学校や川谷地区はどんな中学校・地区ですか?

例えば川谷中学校では現在、3年生は5人しかいません。人数だけを見たらとても少ないですが、その分生徒同士がお互い認め合って過ごしていると感じています。そして川谷地区は地域ぐるみで教育に携わっています。ジャガイモ掘りや運動会などもそうですし、日頃からそういう活動がとても活発です。ほかの中学校ではなかなかないことですね。

 

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その後、一同のツアーは大木のそびえる剣桂や、西郷村で大人気の温泉「大黒屋」の脇にある甲子山大黒天、同じく「大黒屋」敷地に隣り合う勝花亭へと続いた。

「勝花亭」とは西郷村指定重要文化財で、2つの建物を屋根でつないだ門のような形をしているのが特徴だ。白河城主松平定信が自身の著作「関の秋風」でその勝景を広く世に紹介している。西郷村から会津地方に抜ける国道289号線(甲子街道)は平成20年に新しく開通したが、実はそれ以前は勝花亭の門に挟まれた道が国道289号線だった。

その旧289号線の先には滝がいくつかあり、山道を登って行くと白水の滝という美しい滝を見ることができた。(※現在、「白水の滝」へは途中の道が崩れており危険なため行くことができません。)

 

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最後に、Kくんの話を紹介したい。教えてくださったのは前年度まで川谷中学校に勤務していた、ツアー参加者の一人、T先生だ。Kくんが2年生の時のこと。川谷地区をPRするにはどうしたらいいかというパネルディスカッションを川谷中学校で行ったという。

 

驚いたのはKくんの発言の内容だった。

 

「僕はやっぱり、一度は県外に出たいと考えています。でも、いつか地域のために何かをしたいと思った時のために、今、川谷地域のことを知ったり、地域の人たちと関わっておきたいです。」

 

その時は中学生の中から様々な意見が出たという。例えばバドミントンが強いから、バドミントンを活かしたPRをしたらいいのではないか、と言った風に。

Kくん本人にも話を聞いてみると、照れたように笑いながら「奉仕作業とか積極的に取り組みたい」と語ってくれた。ちなみに好きな教科は国語で、バドミントン部に所属しているそうだ。

 

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そして、Kくんのことを教えてくださったT先生はいま、川谷中学校での日々が大きな出発点となり、地域と学校を結びたいと考えているそうだ。

 

T先生は「社会教育主事の資格をとることを考えたのも川谷中学校での日々があったから。今の私を形作っているのは川谷地区で過ごした日々です」と話してくださった。地域ぐるみで教育をしている結果が、中学校3年生の彼らはもちろん、そこに携わる教員の先生方にも広がっているように感じられた。

 

また、ツアー自体が小規模校ならではの、ひとりひとりに向き合う温もりを実感させるものであった。過疎化が進む地域だからこそ、ひとりひとりを大切にしたいと、地域の方々も情熱をもって関わっているのかもしれない。

 

ガイドをした3人は、中学生ならではの初々しさもありつつ、とても頼もしかった。これからが楽しみな中学生であり、彼らのような中学生を輩出し続ける川谷地区であろうと感じた。

 

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